雑種犬ハナは、同居の正太郎が苦手だ。
彼が子猫の時、ハナの尾っぽや鼻先は散々噛まれたからである。
けれども正太郎の方は、 同じ毛の色のハナを姉のように慕っている。
ハナのぬくもりに包まれて眠りたい。この願いをを叶えたいと、 日夜潜入を試みている。
ハナの寝所は1カ所ではない。
常に正太郎による侵略があるからだ。
うう…と唸って吠えても一向に効き目はない。 小さな白い前足をそうっと忍ばせ入ってくる。
仕方ない。と、彼女は次の冷たい寝床へと移動。 ベッドを明け渡してしまうのだ。
失意の正太郎はハナの後ろ姿を見送ると、 タオルの温もりと残り香に顔を埋め、 甘噛みをしながら白と茶の小さな真ん丸になって、 眠りについていく。
散歩の時も油断は出来ない。
正太郎が一緒に行きたがるからだ。
時間が来ると、すでに彼は外塀の上に座っている。 置いてけぼりにされぬ様、 神経を研ぎ澄ませてじーっとハナの登場を待っている。 そしてドアが開けば一目散に走り、しっぽを高々と持ち上げ、 先頭を歩き出すのだ。
正太郎の参加は、必然的に車のこない短縮コースが選ばれる。
その上、道沿いの庭先、車庫、草むら、木登り、 絶えず寄り道をするので、散歩は順調に進むことがない。 正太郎の名を呼ぶ飼い主と、道で待つことばかりで、 ハナの散歩は、全く運動にならないのである。
最近は、夜遊び帰宅の知らせもハナの仕事に加わった。
厭でも習性は仕方がない。彼女はそんな諦め気分で、 寒空に閉め出された正太郎を室内に迎い入れている。
気ままな猫、拾われた正太郎と共に暮らして6年目。
重ねた歳月の老いか、それとも心労からか、
茶色だったハナの顔は、近頃、めっきり白さが増したようなのだ。