---以下本文---
ギャラリー南製作所所蔵作品「肖像」について
清水 久夫
昨年3月26日から4月9日まで、ギャラリー南製作所で開催された「土方久功展:南の島の光と風と夢」に一つの木彫レリーフが展示された。男の横顔が描かれた作品であるが、描かれた人物は、写真などの資料から、青山杉作であると思われる。
このレリーフ作品は、これまで開かれた回顧展に出品されたことがなかった。”新発見“の土方久功作品といえるものである。先日、戦後の「土方久功日記」を読んでいたら、1958年4月に次のような記述があるのが分かった(第75冊)。
8日 ●ゴタゴタシテイテ、ヤッタリ ヤラナカッタリダッタガ、2月ノ20日頃ニヤリダシタ桜ノト、ソレト仝ジモノデ欅ノト、ソレカラ、モオヒトツノ顔ト 出来アガリ、今日カラ、次ノ青山サンノデッサンニヨル 肖像トマデイカナイ欅板ノレリーフニトリカカル。幅1.1尺 縦1.35尺。
4月8日に着手した作品は、大きさが、幅1.1尺(33.3cm)、縦1.35尺(40.9cm)で、ギャラリー所蔵作品とほぼ一致する。また、「肖像トマデイカナイ」と書かれているが、確かに、新発見の作品は肖像らしくない。「青山サンノデッサンニヨル」とあるが、人物は構えた所のない、リラックスした自然な感じを与える。久功は俳優座でデッサンの指導をしていたので、その時に青山のデッサンを描いたものであろうか。
この半年後の9月23日の日記には、次のように書かれている(第76冊)。
23日 4月頃手ヲツケタ、昔ノ青山サンヲスケッチシタノニヨル、□(〔肖)□(像〕)欅板浮彫リノ肖像、イツカ出来アガッテイタモノ、色ツケ終ル。
ここから、このレリーフが9月に完成したことが分かる。肖像が若いのは、「昔ノ青山サンヲスケッチシタノニヨル」ためであろう。
(中略)
以上から、青山杉作の死後、1958年に久功はデッサンを基に、親しかった青山杉作のレリーフ作品を制作したことが分かる。そして、この作品は、ギャラリー南製作所の所蔵品とみてよいだろう。
---本文以上---
非常勤総務追記:本作品の箱(比較的新しいもの)には「男の肖像」と、作品裏には「肖像」と記された紙(比較的古いもの)が貼ってありました。高知県立美術館の図録P81に掲載のスケッチ「青山杉作像」と同じ図案であったことから、展示の際には「肖像(青山杉作像)」としたのでした。制作年は上記スケッチに合わせて1954年頃としたのですが、1958年に訂正しなければなりません。清水さん、ありがとうございます。